診療・各部門
がんと漢方 ~怪しげなサプリメントに走る前に考えるべきこと~
今から15年ほど前、「アガリクス茸」なるものが話題となっていたことを覚えているでしょうか。「奇跡!余命半年の癌が治った!」だの「学会でも絶賛!」だのさまざまなうたい文句がメディアを賑わせていました。当時研修医だった私は大学病院構内を走る市営バスの横腹に大きく宣伝が出ていたことを覚えています。その後は有用性が認められないとのことで次第に尻すぼみになっていったわけですが、いまだ巷には数多くの、怪しげな効果を謳うサプリメントが溢れています。
プラセボ効果というものもありますし(痛みに関してはプラセボでも最大30%の効果を発揮するといわれています)、本人や家族が満足ならばある程度は許容すべき部分もあるでしょう。しかし世の中副作用のない薬はありませんし、特に病人の弱った心に付け込んで高額の商品を売りつけるといった商法は倫理的に許されるべきではないと考えます。あたりまえですが。
「溺れる者は藁をもすがる」の言葉通り、病気になれば人は気弱になるものです。心の迷いからそういったものに手を出してしまう気持ちも分かります。サプリメントの類に関して医学会での明確なガイドライン(これに対してはこうすべき、といった指針のことです)はありませんが、おおまかなコンセンサスの得られている事(それならまぁ納得できますよ、と多くの医師が賛同する事項です)として、
1.長く使い続けられていること…時の淘汰を経ている、ということです。有害事象が多かったり効果がなかったりすれば廃れていくからです。
2.安価であること…大前提として良心的であること。金銭のみを目的とした悪質な商法である危険性を避けることができます。
3.過大な謳い文句がないこと…「末期がんが消失!」だの「奇跡の効果!」だのは良い判断材料です。それほど素晴らしいならば製薬会社は放っておきませんし(特許申請して囲い込むでしょう)、様々な施設で追試が行われ(そんな素晴らしい治療を皆が行わないのは人類にとって多大な損失です)、すぐにノーベル医学生理学賞候補となることでしょう(寡聞にして聞いたことがありません)。
以上すべてをクリアするもののひとつに漢方薬があります。その起源は1800年前にさかのぼりますし、保険診療であれば安価です。また、絶えず治療法や効能効果について議論がなされています(例えば、東洋医学会では腫瘍内科医や外科医を含む大勢の医師や薬剤師、鍼灸師といったその道のプロが議論を重ね、地道な研鑚を続けています。そして常に同業のプロ達の目にさらされているその場で「奇跡の~」だの「驚異の~」だのの言葉が出てくることはありません)。
まずは、西洋医学的に確立されている治療法に準ずるべきです。そしてそこでの治療法に限界があった際には、怪しげなサプリメントに走る前に漢方医学を考慮することです。
以上、病人という弱者を食い物にするような商法が再びはびこってきているように感じ、つれづれ書き綴りました。高額なサプリメントに手を出す前に、ご一考いただければと思います。